このコンサートが決まったと知った先年暮れより、心より楽しみにしていたコンサートです。この地方に於いて、世界最高の奏者を迎えてのコンサートなわけですから、、
御喜美江(みき・みえ)さんは、普通和音しか鳴らない左手を改良し単音ボタンを左側にも配して、左手でもメロディが弾ける「クラシック・アコーディオン」の当代最良の演奏家です。16歳の時、アコーディオン課のあるドイツの音楽学校に留学、その後あまたのコンクールに優勝、現在に至ります。
残念ながらマイナーと呼ばざるを得ない楽器ですが、クラシック・アコーディオンを扱っての高名はずいぶん以前から聞き及んでいましたが、実際に演奏を聴くことはまだ無く、本当に楽しみにしていたコンサートでした。
当日のプログラムは以下の通り、
- D・スカルラッティのソナタから3曲
- フランスバロックより「鳥」をテーマに3曲
- ラモー:鳥のさえずり、めんどり
- クープラン:恋のうぐいす
- ダカン;かっこう
- フランスバロックより「タンブーラン」3曲
- クープラン:タンブーラン
- ダカン:ロンド風のタンブーラン
- ラモー:タンブーラン
- バッハ:「アンナマグダレーナ・バッハの音楽帳」より3曲
- ジョン・ゾーン:「ロードランナー」(1986)
- ショスタコーヴィッチ:「舞踏の回転木馬」より
- グバイドゥーリナ:「深き淵より」(1978)
前半はバロックをアコーディオンで演奏、前半最後の「ロードランナー」と最後の大作グバイドゥーリナの曲はアコーディオンの為の曲です。
クラシック・アコーディオンとなって左手でも単音が弾けるようになり、演目のバロックの様な曲は、編曲は全くなしで、そのままの楽譜通り弾けると言うことです。
演奏間に御喜さんの、楽器について曲についての簡単な話がありましたが、そこで言われたとおり、楽譜通りでもアコーディオンで演奏されると、大変印象が変わって聴こえます。
そしてまた、それがとても素晴らしく聴こえるのは、ひとえに御喜さんの持つ音楽性ゆえだと思われます。特にアコーディオンの為に書かれた曲で見られる、脅威的で完璧なテクニックをバックに、アタックのはっきりしないアコーディオン独特のメロウな音色を配しながら土着的にも民族的にも陥らず、また哀愁にも流れずに、一つの優れた表現楽器として純粋に音楽を作り上げて独自な世界を作って行く様は、やはり見事と言う他は有りません。
しかし圧巻は、やはり最後のグバイドゥーリナの「深き淵より」でした。元々バヤン(ロシアのアコーディオン)の為の曲と言うことですが、先に書いたように聞き進むにつれて「アコーディオンの演奏」を忘れてしまいます。最後の方で「あぁ、なんて綺麗な音なんだろう」と感じ入りつつ、曲は終わりました。