クリスティーズ、1997年、東京ワインオークション


最近でこそ、「東京オークションハウス」と言う所が、東京にて定期的にオークションを開いていますが、それまでは一般の人たちをも対象とした本格的なオークションは余りありませんでした。

そう言う時から、世界有数のオークション会社、クリスティーズは東京にてワインオークションを定期的に開いていました。今年(1997年)にて、はや8回目の由です。

私は確か過去4回か5回、書面にて入札しまして何回か落札もしましたが、未だに実際のオークションと言うものに一度も参加した事が無く、常々より「一度クリスティーズのオークションに参加してみたい。」と思っていました。

今年は、丁度他に用事もあり、初めて実際のオークションに参加しました。写真を取らなかったので、ピクチャーが無く残念ですが、この度のオークションについての報告と、私が感じたことを以下に書いてみます。

宜しければ、ご意見など(反論でも良いです)、何でも気軽に聞かせて下さい。


オークション参加の手順は、まずカタログを注文して、そのカタログに有る申込書によって、事前に参加を申し込んておきます。

当日は数字の書かれたパドル(今回の場合は札でしたが)を受け取り、入札参加はそのパドルの上げ下げで行います。帰りに落札したロットの確認のサインをして、配送方法をさらに指定します。

それに従ってクリスティーズの方から後日請求書が届き、銀行振り込みにて送金すると品物が引き渡し可能となります。


何かスケジュールが凄く遅れた様で、カタログが届いたのがオークション日の5、6日前でした。

昨年も、エスティメイトからして凄く高い感じで、2つ3つ半ば無理矢理入札したものの、全く落札出来なかったので、今年も全く期待していなかったのですが、それにも輪をかけて興味を惹かないカタログでした。

「折角、東京まで行って参加するのだから、落札が出来なくても誰かと競り合ったりしてみたい、、」とか思ってカタログを見たのですが、そう言うロットが殆ど有りません。

確かに中には良いワインが幾つか並んでいます。でもそれは当然で、「オークション」は比較的良い物を売る場なので、作り手も有名どころが、ヴィンテージも良い物が、出品されるのがごく普通なんです。

でも、今回のカタログのそう言う、スターロットは、目が飛び出すほどの高価なエスティメイトがついています。

唖然として、それ以外のロットを見ると、それが又、「オークション」としては異例なほどに「はずれワイン」が多い事が凄く気になりました。

具体的には例えばボルドーでは、 「有名シャトーの、古い大はずれヴィンテージのワイン」や「そこそこ良いヴィンテージだけど、その有名シャトーのその年のワインはとても評価が悪い」なんて奴です。ブルゴーニュでは、とにかくあまり良くないと思われているヴィンテージが、かなりの部分を占めています。

更にそのエスティメイトは、と言うと、そう言う古いワインは、これまたヴィンテージを間違えたかと思うような吃驚するような価格で、新しめのワインは市場価格とほぼ同じエスティメイトで、カタログに並んでいます。

この様に今回のカタログを良く読み直しての、私個人のごくごく正直な感想は、

「在庫一掃セール」

です。つまり印象としては、とにかく普通売れそうもないワインが大層多く幅を利かせています。

古い弱い年のワインはテイストに殆ど期待が持てませんから、普通のオークションでは出たとしてもとても安いです。それを日本では「希少価値」で高く売ろうと、クリスティーズが持ってきたのでしょう。

新しめの、良くないヴィンテージのワインは、提携のジャーディンの、それこそ在庫整理そのものでしょう。

私は最初は、本当に「こんなものをこんな価格で売って良いのか」と思いましたが、実際大体エスティメイトそれ以上で落札されていましたから、流石にクリスティーズとジャーディンの読みは素晴らしいと、いたく感心しました。

この読みの深さから考えるに、暫く前予定されていた東南アジアのクリスティーズのオークションが中止になった由ですし、次回は1年後でなく、来年春くらいにまた東京でオークションをするかもしれませんね。(まぁ、急遽開催出来るものでも無いでしょうが)


いろんなロットが有りましたが、盛況の内に進み、殆ど完売でした。全400ロットの内、351番目の、以前飲んだことがあるロマネ・コンティ1958(4万ほどだった)が22万円で落札された(それでもエスティメイトよりずっと下)のを確認して、カーヴ・ド・タイユヴァンのパーティの方に行ったのですが、それまでに私は結局1度パドルを上げただけでした。

この様に、古く良くないヴィンテージ故、中身の期待できないワインが、ずいぶん高く売られました。

「安く落札されたな」と思ったのは、1981のイケムのマグナム6本が同じく22万円で落札されたロットそれのみでした。少人数では飲めませんが、この先長く持つし、美味しいこと絶対間違い無しでしょうし、結婚式やパーティなどでこれほど華やかなワインは有りません。

新しめのワインも、高くエスティメイトされ、また簡単に高く落札されました。例を2つほど挙げれば、A.ルソーのシャンベルタン1994が、1ケース10万から15万のエスティメイトで16万円で落札されました。このワインはこの10月に行われるワインフェアのリストに、1本9千6百円で載っていまして、多分まだ買えるでしょう。

また、今年(97年)の「世界の名酒事典」に定価7千5百円で載っているトカイ・ニュラソー・アスー91が、6本で6万5千円で落札されました。この場合、エスティメイトは控えめで2万から3万で、オークションならこの範囲がしごく妥当と思います。しかし、こんなオークションがいつも有れば、ジャーディンはきっと笑いが止まらないでしょうね(当然クリスティーズも)。


一般的に、ワインは中身の美味しい物(若しくはそう言われている物)が高くて、ムートンのラベルコレクションしている方の特別な例を除いて、まずい(と思われる)ワインは、例えロマネ・コンティであれ安い物なのです。

理由は簡単で、ワインは飲む物であって、飲んでまずい酒は我慢できないのが普通だからです。誰かの生まれ年ワインを手に入れて喜ばしてあげようと一緒に飲んでも、美味しくなければ(少なくとも飲める物で無ければ)誰も喜んでくれません。

翻ってそれが自分の為であっても、美味しくなければ、単につまらないだけでしょう。ワインの本質はその人を幸せにするその素晴らしい香りとテイストにあって、ラベルではありませんね。

だから、評判の良くないヴィンテージのワインは幾ら珍しくても、何処に行っても(ムートン以外は)安いのです。でもそこを、希少価値で売り込まれる、という事ははっきり言ってちょっと馬鹿にされているじゃないか、とも考えてしまいます。

また普通オークションの品物は現状渡しで、保証などは有りませんから、他に一般にも流通している物なら安いのが普通なのですが、どうもそうでは無かったみたいですね。

最初は「後で後悔しないかな」とか思ったのですが、でも多分買った人は、結局のところ価格なんてどうでも良い方たちなんでしょうね。

酒屋のフェアで一生懸命安くて良いのを探して、買いに行ったり、何度も繋がらない予約の電話をかけたりするんじゃ無くて、パーティ風の華やかな舞台で颯爽とスマートにワインを買う事しかしたくない方々なんでしょうね、多分。