xiphioのワイン雑記帳


「今日からちょっとワイン通」、書評独白
(山田健著 草思社)


私はワインが好きですから、東京なんかに出てちょっと大きな書店に行きますと、必ずワイン関連の本が置いてある所を見てみます。昔はワインの本なんて、ほんの少ししか出ていませんでしたし、新しい本も稀にしか出なかったので、何か出てると、とりあえず必ず買っていました。

ところがこの2、3年、ワイン関連の本がそれは沢山発刊され、最初はそれでも見かけると買っていたのですが、中にはどうしようもない様な本がかなり有りまして(あくまで私自身の感想です)、すぐさま古書買取りの店に持ち込んで、かわりに子供の本を買ってきたりしてました。

そんなこんなで、最近はあまりしょうもなさそうなワイン本は買わなくなったのですが、先日地元の本屋に行きますと、、


「今日からちょっとワイン通」、山田健著
草思社(¥1400+Tax)

なる本が平積みされていましてた。なんか、いかにもありそな受けを狙ったタイトルで、「あーあ、またこんな本でてる」と思いながらも、そこはやはりワイン好きなもので手にとってまずは著者の経歴を見てみると、サントリーのワイン担当のコピーライターの由。

だいたい、有る事柄に大変な見識を持っていると思われる方も、ある会社の社員としての経歴が主である場合、その事について本を書く場合は、どうしてもその会社の社員としての立場や、独特な狭い了見でしか物事を書けないことが多い様に思います。それで即座に「まともなこと書いてある訳ないや」と、とりあえずは判断しました。

それでも一応目次を見ますと、そこで目を惹いたのが、「あの『美味しんぼ』でも間違うことがある」と言う項目で、「まぁ、こんなの叩いてどうすんの?」と思いつつも、(やっぱりワイン関連の事は好きなんで)どういう風に書いているのかな、と興味が湧いてついつい本を買ってしまいました。

で、読んでみると結構面白いんですね。タッチは軽く半ば面白おかしく書いてありますが、内容は、多くの人が思い違いしている事柄とかがちゃんと書いてありますし、各話題に対する考え方も大体において私と同じで、共感をもって読めました。

タッチが軽いので無理なく読めまして、気づいたら全部読んでしまっていました。久しぶりに楽しかったです。私には「良い本」と言うよりもむしろ、先にも書いたとおり「共感をもてる本」でした。

逆にこの本の欠点と言えば、その読みやすさにあります。どう言う事かといいますと、読み易くする故でしょうか、主張している事柄の理由として、簡単な個人的な経験の披露だけで、詳しい論理的解説が殆ど無いことです。その為に、「理解」するのでは無く、うのみにしなければいけない辛さが有るかも知れません。(人によりけりでしょうけど)

例えば赤ワインの飲み頃について、閉じる期間がある事についてですが(これも今では常識ですが)、これはワインのテイストを幾つかのエレメントに(大まかには2つ)分解して考えると、至極分かり易い事柄だったりします。

「コルクは空気を殆ど通さない」と言うのも、海中熟成ワインの話だけでなく、もう少し、色々な事実や、また専門の方たちの意見等も取り上げた方が、きっと信用する人がより増えるでしょうね。

そうじゃないと、「著者は自分の『感じ』で書いており、俺の感ではそうではない!」なんて思う人が居るかも知れません。


以下、ちょっとくどくなってしまうかも知れませんが、本の章を追って、その章ごとに私の感想を書いてみます。


「フランス・レストラン」「ワインと料理の相性」
「高級ワイン売場」「シャトー・ラグランジュ」

まず上記の、この本の最初の4つの章の内、「フランス・レストラン」と「高級ワイン売場」は読まなくて良いでしょう。

ここはトラウマ入りの個人的な経験だし、キョービの方には読んでも「ああ、そうですか」と言うくらいでしょうから。「シャトー・ラグランジュ」も個人的な経歴なので本当は読まなくても良いのですが、有名なラグランジュの鈴田氏の話がでてますので、、


「ホストテスト」「香りを嗅ぐ」

「ホストテスト」の文章中には、某氏の対談文への批判が有るのですが、でも実際その通りなので何も言うことは無いですね、はい。この章についても、次の「香りを嗅ぐ」においても著者の意見に概ね賛同します。


「グラスの効用」

その次の「グラスの効用」についても、グラスが大変重要と言う点については、書いてある通りに思うのですが、ただ金魚鉢のごときバルーングラスを何のコメント無しにほめて終わりにするのは、どうかと思います。

若いワインにはそれ用の、熟成したワインにはそれに見合ったグラスがあってしかるべきだと思いますが、そこまでは言及してなかったですね。まぁ、私もここらの細かいところは、個人の好みも結構あるので一概には言い切れないとは思うのですが。


「味と香りの形容詞」「ふたたび相性について」
「目隠しテイスティング」「飲み頃について」

次の4つの章「味と香りの形容詞」「ふたたび相性について」「目隠しテイスティング」「飲み頃について」なんかは、細かい感想なんかは書きませんが、大体その通りの様に私は思います。


「ワイン・ジャーナリズム」

「ワイン・ジャーナリズム」の章は、副題が「あの『美味しんぼ』でも間違うことがある」となっていまして、内容はその副題の通りです(私には何故「ワイン・ジャーナリズム」なんて題になっているのかちょっと不思議です。『美味しんぼ』はワイン漫画ではないし)。

内容は確かに、著者の仰る通りなんでしょうが、あれは結局の所、何かを学ぶ為の漫画で無く単なる娯楽漫画だし、無理にでも面白いストーリーにしなけりゃならないので、「まぁ、勘弁してやってよ」と言う感じもありますが、、読む分には面白いです。


「コルクの役割」

「コルクの役割」について書かれている、著者の「こういうアホーな誤解に対して、いったい、だれが責任をとってくれるのだろうか。」と言う一文には、私も共感を覚えますね。

でもちょっと昔は「ワインはコルクを通して呼吸をしています」って本当に書いてあったよなぁ、その時は言われるままに信じていたし、、(今も信じている人が多いと聞きます)


「亜硫酸の不思議」

次はこれまた最近良く話題になる、ワインの添加物の亜硫酸についての章で、ここも良い内容と言えます。中で亜硫酸の効用をきっちり7つ解説してあります。

これらについては、私も何度か聞いたことはあるんですが、いつも全部は覚えられないのですよね、せいぜい2つ3つ位しか記憶に無かったので助かりました。

でも、この本にも書いてあるけど、昔は「日本に来るワインだけが亜硫酸が入っている」って言っていた人結構居ました。ワインの専門家じゃないけど、結構有名な人からそう言う風に聞いた事もあります。(昔々だったので、へぇーって信じてしまった)


「ワインの運び方」

この章の内容については、多分相違した意見を持つ人が居るでしょうが、私は著者とほぼ同じ意見です。

内容は要するに「風評と違いワインは注意深く運べば大丈夫、ただ直後は味がバラバラなので(一般的にトラベルショックと言う)暫く安静に寝かして於いた方がよい。」と言う事なのですが、これが先に取り上げた様な事柄と違い、今のところ理論や事実でなくて、基本的には官能テストによる経験によって納得するしかないので、議論も多いでしょう。


「デカント」

デカントについては、する人、しない人、色々ありまして、殆ど宗派による作法の違いの様相ですが、この本に書いてある事は至極もっともな論理です。私もデカンタする場合は、「澱を除く」と「均一にする」との2つの目的しか見ていません。

本に有るように、「デカントして一気に枯死に向かった」様な経験も少ないけど有りますので、するしないはやはり個人の好みですね。

ただ例としてあげられている、「ザザーッ、ザザーッとできるだけラフに、泡立てるみたいにして、しかも3回」デカンタしたワインとの比較の話が出てますが、ここまでやると、痛める事のみを意図してやっているもので、厳密な意味での「デカント」とは違っている様な気がしますが、、

またその先の、「ワインの栓なんてものは、飲む1時間前に開けようが、3時間前に開けようが、味には、なんの影響もないんである。」と記述されているのには、ちょっと異議を唱えたくなります。

実際には、開栓しただけのワインの1時間後と3時間後を比べた事が無いので、あまり変わらないと、たとえその文面自体は認めるとしても、0分と30分では明らかに変わりがある様に思います。物事はリニアに進むとは限らないんじゃないでしょうか。

面積であってもそうで、本には、開栓しただけのワインの空気との面積がパニエに寝かした場合の1/20だから、、と安直な計算をしていますが、我々の感覚もそいう風に、リニアに計算して良いものでしょうか?。


「酒石とオリ」

ここでは、澱には2種類有って、例えばボルドーとブルゴーニュでは違うと、書かれています。へぇそーなんだ、私、澱って意識して飲んだこと無いんですよね。

でも「澱も美味しかった」と言う事は、時々聞きますので、そう言うことも有るんですね。


「ロバート・パーカー」

この章はあらかさまなパーカーさんへの批判です。「『責任者でてこい!』と、ぼくは大声で叫びたい気分なんである。ね、パーカーさん!!」の一文で、この章は終わっています。

この最後の文は正確には何をどう表現しているのか、あまり良く分からないのですが(著者のいらつきは表現していると思うが)、とにかくこの章は、パーカーさんの、ワインを100点満点のスコアで評論する事、それとパーカーさんの好み、が批判されていることは間違いないでしょう。

でも、誰がどう評価しようと、どういう好みだろうと、その本人には関係ないんじゃないでしょうか?。パーカーさんは点数しか書かないのでは無くて、評論も書いています、それも読みましょうね。

性格の違うワインもいっしょくたにして点数をつけるのが、相当お気に召さない様だけど、ワインにスコアをつける事自体は昔から20点満点法があって、別にパーカーさんが始めた事ではないし、批判するならその昔からある奴や、なんなら、ブロードベントさんの5星評価も批判してみたら如何でしょうか。目が細かいからって、批判の対象になるなんて事は無いよね、多分。

一般的に言える事は、ワインで儲けなければいけない人は、必ず「悪いワインなんか無い、どんなワインも、それなりに素晴らしい」とかの、さも含蓄の有るような事をのたまう訳です。仕方有りません、彼らはセールスマンで、結局は「セールストーク」だからです。だから、つまらない凡庸なワインには、「すっきりした味わい」とかの言葉になっちゃうんですね。

で次に、パーカーさんの好み、なんですが、これは多くの人が言うように、多分この本に書かれている通りでしょう。でも誰だって、自分の思った様にしか評論出来ないんじゃないでしょうか?。

著者が音楽の話も持ち出していますから、私も音楽の事になぞらえますと、古い録音がCDで再発売されての評論で、誰かが「オケが粗雑、ピッチも合っていない、云々」とかなり低い評価をしたとします。でも私なんかが聴いたら、細かい事はあまり判らないので、とても良い演奏に思えたりします。(まぁ、割と良い演奏だから、古い録音でも再発されるのだけど、普通)

我々が評論を参考にする場合、本来は、書かれている評者のメトリックを自分のそれに修正する必要が有ると言えますね。でもこれは、相当経験しないと難しい事ですが。

以前にも書きましたが、問題はパーカーさんのスコアが一人歩きする事自体なんですね。盲目的にスコアだけを信じたり、価格がスコアによって大きく変わったり、もっと酷いのは、パーカーさんのスコアが良くなるようにワインを作るようにしたりする事です。

本当に「責任者だあれ」って言いたくなります。


「マジメの酒」

ここは非常に興味深い章です。ワイン作りの難しさを、かいま見た気がしますね。私が言うことは無いです。


「ちょっと通になるためのワイン用語解説」

読んでないので、何も書くこと無しです。


「価格別・味わい別おすすめワイン一覧」

批判はしません。仕事柄、こういう付録のページを付けざるをえなかったのでしょう。