1997年9月 今月の印象に残ったワイン


そろそろ飲まなければいけない、ラランド(Ch. Pichon Longueville Comtesse de Lalande)が数本まだ残っていましたので、友人数人を集めてラランドのミニ垂直をやってみました。

Ch. Pichon Lalande 1976, 1979, 1981


ご覧の様にヴィンテージは76、79、81です。これらのヴィンテージは何となく良く似ていまして、82や75の様に大変優秀なヴィンテージではありませんし、78の様な良いヴィンテージともちょっと違っていて、「そこそこ良いヴィンテージ」と言うのが私の素直な印象です。

75や78と共に、保存がまともなら、今がこのラランドクラスでは丁度飲み頃な筈です(下位のワインは既にダメかも知れないけど)。以前沢山ワインを飲んでいる友人が、78がそろそろ古酒の域に入りつつあって面白い、とか言っていましたが、本当にそのぐらいの感じなんでしょうね。

実はラランドは78、79辺りを、以前飲んだことが有りましたが、その時は何だかオーバーライプ(over ripe)な印象がとても強く、それからはラランドはあまり飲みませんでした。

飲んでしまってもう手元に78が無いのが残念ですが、以上の3本でミニ・ヴァーティカルをやってみました。実はあと75と82も持っていまして、やろうと思えば5つのヴィンテージででも出来たのですが、4人で集まる事となったので3本にしました。

ご存じの方が殆どだと思いますが、ワインの場合、普通「垂直試飲」と言いますと、同じワインのヴィンテージ違いをテイスティングする事、また「水平試飲」と言いますと同じヴィンテージで色々なワインを飲む事を指します。ヴィンテージの数より、ワインの種類の方が圧倒的に多いので、どちらかと言えば、作り手にフォーカスを当てた垂直試飲の方が良く開催される様です。

私は田舎にいて、そんな試飲会に出たことも無いし、またその機会も有りません。(東京だと、あっちこっちでやってますね。)それでも思うのですが、グラスに半分くらいで、次々とワインが出てくる試飲会で、本当にそのワインの性格が分かるのでしょうか?

特に古めのボルドーやブルゴーニュは、開栓後の時間でテイストがかなり変わる様に思いますので、私などは、開栓後30分、それから少なくても30分ぐらいかけて飲まないと、良く分かりません。

でも、パーカーさんみたいなプロの人は、試飲にそんなに時間を掛けられる訳ありませんから、即座に判断出来るんでしょうね。そこが経験と感性の差なのでしょう。


折角ですから、私もこの度初めて知った、ちょっとマニアックな事を幾つか書きますと、上記ラベルのピクチャーを見ていただいて分かるとおり、78以降は現在と同じ "Chateau Pichon Longueville Comtesse de Lalande"とありますが、76のラベルには "Chateau Pichion Lalande"なんですね。

いつから変わったかは、77のラベルを見ないと分かりません。でも、既に77なんて何処にも無いでしょうから、「78から変わったんだよ」と通を気取って言い切っても、殆どの人は反論出来ないでしょう。

また最近のラランドの瓶は、肩の正面の所に印が入っている特注の瓶ですが、これは83年以降の様です。ちょっと見てみましたが、82年までは、普通の瓶でした。

以上は、中身のワインとは関係ない、しょーもない事ですが、知ってれば少し見栄がはれるかも知れません。(まぁ本当の所、ワインで見栄をはっても、しょうがないと思うのですが、、)


それで、肝心のワインなんですが、各々81、79、76と年差をちゃんと表したテイストで、どれもとても良かったです。最初は81だったのですが、これのみデカンタ後10分足らずで飲み始めたからかも知れませんが、最初ほんのちらっとタンニンが当たり、ちょっと熱にあたった様なイメージはありましたが、それもほんの少しで、概ね熟成した見事なボルドーワインでした。

79は81より確実に熟成を迎えた呈で、まだ力強く有りながら、より広がりが有って、とてもバランスが良く、普通にはこれが一番美味しいでしょう。

76は79に比し、更に数年の経年が良く分かり、色もずいぶん薄くなり、力強さはもう感じられませんが、とても綺麗に熟成していて、私の好みはどっちかと言うと、こちらでしたね。

どのワインとも以前に飲んだような、オーバーライプな所は全く無く、(暫くラランドを避けていたのですが)今一度ラランドを見直しました。因みに上記81、79ラランドは、92年に広尾のエノテカで、76は93年に池袋西武にて買った物で、オークションではありません。


先のラランドの会は、当初4人の予定でしたが、結局1人減って3人になっていまい、白を飲まずにいきなり赤から始めたのですが、それでもなんとワインが足らず、急遽、

ルイ・ラトゥールの、モンラッシェ1985

を飲みました。

これはオークションで何本か買ったワインです。今まで何回か、東京などに持参して知り合いの方々と飲みましたが、ボトル差が結構有りまして、この間東京に持っていったボトルは、余り状態が良くなくて「あれれぇ」とか内心思っていましたが、このボトルは最高!、白とは思えないとても凝縮した力強いテイストで、赤ばかり飲んだ後でも全く引けを取らず、むしろこれが正しい順番かと思うほどでした。


本年6月にニュージーランドに行きまして、幾らかワインをかついで帰ってきたのですが、まだ1本も飲んで居ませんでしたので、奥さんの誕生祝いに食事に行った折りに、1本NZワインの白を持って行きました。

Collards Rothesay Vineyard Chardonnay 1995



このワインは、NZへの行きの飛行機で、ラッキーにもビジネスクラスに変えられたのですが、そこで飲んで大変感心したワインです。

オークランドに着後、コラードのワイナリーへ行って試飲もしましたが、やはり良かったのでそこで買ってきたワインです。(ちなみに、各NZワイナリーで試飲した中で、一番印象的だった白は、クメウのシャルドネです。赤は、ストニィリッジのエアフィールドでした。)

NZで求めた幾つかのワインの本でも、このローッセィのシャルドネは常に最高の評価を得ています。

ところが、日本に帰ってきてヴィレッジセラーズのリストに、94が2千円台で載っているのにはびっくりしました(現地でもそんなに高価なワインでは無いのですが)。ただヴィレッジセラーズでは、95は無く、その次は96になるのだそうです。一応私が95を持って帰った意味は有ったわけです。

NZのシャルドネは一般的に、良くある新世界のシャルドネの様に「ボディが大きくてオーキーなだけ」と言う様ないびつな所が無く、比較的バランス良く品良く仕上がっている様に思えまして、私はとても好きです。

このローッセイ95はとても華やかな白ですね。まだ若いからかも知れませんが、色々なテイストが様々に感じられて、ちょっと豪勢な感じです。それでいて突出した物はなく、バランスはとても良いのです。

ブルゴーニュと比較すると良いのかも知れませんが、実の所、90以降の若いブルゴーニュの白はあまり飲んでいなくて、余り比較できませんが、やっぱりちょっと違う感じはします。

その後に飲んだのは、Ch. Brane Cantenac 1964なのですが、以前に2回ほど飲んだ物よりいくらか進んで居るみたいでしたが、美味しかったです。このワインについては何時また書くことも有ろうかと思います。


Diamond Creek "Red Rock Terrace" 1989



4、5年も前、東京での或ワイン会にて、一口目「あら、(濃くて)美味しい」と思ったワインです。それまで敬遠気味だったカルフォルニアワインの資質に初めて目を向けさせられたワインと言えます。(普通の人よりは、すいぶん遅かったみたいですが、、)

ダイアモンド・クリークは以前から良質な赤ワインで結構有名なヴィンヤードでして、この"Red Rock Terrace"の他に"Gravelly Meadow"と"Volcanic Hill"の、3つの単一畑のワインを出しています。89はカルフォルニアでは、それほど良い年では無い様です。

その後、このワインをオークションにて何本か買いまして、1、2年おきごとに飲んで、これで3本目です。

1本目は最初の印象と良く似ていて、幾らか濃さは解けて来た感じでしたが、果実味の強いやはり美味しいと言えるワインでした。ただ、1人で何杯も飲んでいるとすぐ飽きてしまいそうでした。

その次は、果実味も幾らか落ちてきて、楽しむ材料の少ないボトルだった様に記憶しています。「もうだめかな、後のは適当な機会に早くもう」とかその時は思いましたが、それは今考えると、ボルドーワインで良く言われる「閉じている時期」だったかも知れませんね。

実の所、あまり期待せず開けたのですが、香りにも味にも広がりがあって、とても美味しかったです。カルフォルニアのカベルネも、そう言う変化がやはりあって、(まだ1例だけですが)それを追跡できたという事が分かって、結構面白かったです。

90年以降、最近のダイアモンドクリークは、あまりぱっとしないと言う噂です。事実この所R.パーカーさんの評価も良く無いみたいですね。私はついつい他の作り手に目が行くので、買っても居ないし、飲んでも居ないので分からないのですが、、


私がワインを飲み始めた頃、「白ワイン」と言えば「シャブリ」でありました。同時にその濫造による品質低下をも言われていまして、当時レストランで何度かシャブリのプルミエ・クリュあたりを飲んだ記憶が有りますが、良かったと感心した事は無かった様に思います。

その内、好みはピュリニー、シャサーニュの両モンラッシェに移り、シャブリは殆ど飲みませんでした。実の所、ブルゴーニュの白ワインの中でもシャブリはかなり異質でして、全体的に酸が強くドライで、それが当時は、ワイン入門の方々の「すっきり味」の好みに合ったのでしょうね。

「良いシャブリは素晴らしい」と言う、しごく当たり前のことが分かったのが、結構最近、ラヴノ(Raveneau)のワインを飲んでからでした。

その後、ラヴノのシャブリ85と87のプルミエクリュのロットをオークションで買いまして、この1、2年飲んでいます。今月飲んだのは、

Chablis 1er cru "Vaillons" 1987 (J.M.Raveneau)



です。いつもながら、大変美味しいです。

買ったこのロットの最初の1本をすぐ友人と飲んだのですが、何故か余り良くなく、それ以降このロットは人に出せず、もっぱら私とうちの奥さんとで飲んでいます。(家内には評判が良い)

先に書いた様に酸が高くドライでいわゆる「剛胆」で有りながら、その中に芳醇さ(これは熟成に由来すると思われる)もあり、良いシャブリの特徴とも言える、かぐわしい香気とミネラルっぽい風味があります。

やはり同じシャルドネとは言え、南ブルゴーニュの白ワインとは違いますね。

85と87が有るのですが、何時飲んでもヴィンテージの差が殆ど有りません。85は良い年、87はあまり評価の良くない年なので、不思議な位です。

また驚くべき事に、プルミクリュなのに「今から丁度飲み頃」と言う所でして、モンラッシェあたりのグランクリュに比べても、明らかに長命ですね。