1999年5月 今月の印象に残ったワイン


いつもここで取り上げているワインは、数人で飲んだものも時折あるのですが、何も書かずに取り上げているのは殆ど一人で飲んだワインです。一人で1時間なり2時間なりの時間をかけて飲みますと、最初は解らなかったそのワインの魅力とかが出てくることがあり、嬉しくなる事もしばしばです。

今月は、本数がちょっと多いのですが、それは今月一人で飲んだ回数が多いのと、そのなかで結構良いワインが多かった為です。でも「そのワインの事が良く分かる」と言いつつも、やはりワインは一人で飲むより気のあった友達と飲んだ方が絶対楽しいですよね。

ワインが素晴らしいのは、ワインの美味しさもさることながら、ワインを介して他の方ととても楽しい時を過ごすことが出来る、そしてまた、とても素晴らしい友人達が出来る、と言う事になるのではないかと、最近思っています。

ふと考えてみれば、私の素晴らしい友人達は、学校の同級生であった者以外は、皆ワインとなんらかの関係が有ります。

連休中に、大阪のワインバー関係の方が十人ほど、わざわざ徳島まで遊びに来てくれました。初めて会う方もいらっしゃいましたが、幾人かは昔からの、気のよい友人です。楽しい一日でした。

数年前、私がインターネット上で、このワイン関係のホームページを立ち上げたのを見て、あるイタリア人がmailをくれました。最初は「英語のページが無いじゃないか」と言うような事だったのですが、他の趣味も非常に似ていると言うことで、mailを時々交換するようになりました。

彼は当時イタリアのワインの輸出会社に勤めていたのですが、暫く前からトスカナのファットリアに勤めています。彼に会いに、昨年(98年)10月にイタリアに行きましたし、この5月にはワインのプロモーションの為に彼が日本に来まして、大阪で他の友人たちと会って色々楽しかったです(私の英語がもう少し上手だと良いのですが)。この事は、そのうちxiphioのイヴェント報告の欄に書きます。

人生の幅を広げてくれた、素晴らしいワインに、今更ながら乾杯ですね。




Ch. Lagrange 1970 (MAGNUM)

大阪から知り合い(殆どがワイン関係者)が徳島に遊びに来た(と言うか、実はワインを飲みに来た)時に、下で書いていますロマネ・サン・ヴィヴァンの前に出したワインです。人数が多くなったので、共にマグナムにしました。

80年代にサントリーが買い取って大改革、一躍サンジュリアンの優秀なワインの代表みたいになったシャトー・ラグランジュの70です。

当然このヴィンテージは低迷していた時期で、70でマグナムとはいえ、ちょっと心配だったのですが、存外なほどに大変美味しくて私も嬉しかったです。メモもとっていないし、もう1ヶ月も前なので、どんなだったか今書くのはちょっと辛いのですが、熟成した良いサンジュリアンと言う印象です。(コメントになってないですね、すいません)




Romanee St. Vivant "Marey Monge" 1970 (MAGNUM)
D.R.C.


「DRCのロマネ・サン・ヴィヴァン、1970」です。ラベルがDRCでは無いと思われる方は、上の小ラベルを良く見て下さい。ヴィレーヌさんのサインがあって、ドメーヌ・ロマネ・コンティの名前が有ります。

何時からDRCのラベルに変わったのか不明ですが、飲んだことが有る76年のロマネ・サンヴィヴァンは、例のDRCのラベルになっています。そしてラベルには"Marey-Monge"の名前が入っています。

実は、昔のサンヴィヴァン修道院の畑で現在ロマネ・サンヴィヴァンと呼ばれる地域の葡萄畑のかなりな部分をマレイ家が所有していて、それをドメーヌ・マレイ=モンジュが作っていたのですが、1947年にDRCがその畑の長期賃貸契約を結び、1966年より栽培と醸造を委託されて居たようです。

ですから、ラベルはドメーヌ・マレイ=モンジュになっていますが、実際はDRCのワインなのです。ですからその内、先に書いたようにDRCのラベルになっちゃったみたいです。尚、マレイ=モンジュの畑を正式にDRCが買い取ったのは、1988年の9月との事です。

昨年、大阪の知り合いのワインバーに行きますと、これと同じマレイ=モンジュの70のボトルが飾ってありまして、「あれ、このワインのマグナム持ってるよ。」と言ったのが、まぁ運のつき。彼の経験では、そのマレイ=モンジュの70は素晴らしく美味しかった由。すぐ「ゴールデンウィークに徳島に行く」と言う事になりました。まぁ私も、マグナムボトルなど、誰かが来てくれないと開けられないので、徳島まで来てくれるなら大歓迎です。

1970と言う年は、ボルドーは良い年なのですが、ブルゴーニュにはそれほど良いヴィンテージではなく、前後の69や71の方がずっと素晴らしいです。(69のブルゴーニュは好きです)

そんな事もあって、私自身は中身に関して半信半疑だったのですが、開けてみると「絶対美味しいから」と言うその知り合いの意見が全く正しかったです。(まぁ、マグナムだしね)




Richebourg 1988
Domaine Jean Grivot

「ワイナート」と言う季刊のワイン雑誌が出ていますが、先頃出たその2号はブルゴーニュ特集でした。結構面白くて、特にグロ家の各ワインの関係について詳しく載っているのは有り難かったです。

その中で、ドメーヌ・グリヴォを取り上げてるのですが、その中でライターは『1987年から1991年までのここのワインは、はっきり言ってヘンだ。』と言い切っています。と言うのはこの時期、グリヴォでがギ・アカと言う人の提唱した醸造方法を取り入れてワインを作っていたからです。

ちなみに、この時期ブルゴーニュでこのギ・アカさんの方式をとった作り手は結構多かったみたいで、パーカーさんの「ブルゴーニュ」を読んでいてもこの事は結構出てきますね(ブルゴーニュでは一時期流行になった様です)。それが知らない内に、本当にまるで流行がすたれる様に、みなギ・アカから離れていったみたいですね。グリヴォでは93よりギ・アカのやり方を止めたようで、先のライターはその93以降のワインをべた褒めしています。(私は飲んでいません)

で、ふと考えてみると私が持っているグリヴォは、88と90の(実は共に良いヴィンテージなんだけど)その「はっきり言ってヘンだ。」と書かれてしまっている時期のワインなんですね。

「ここまで書かれちゃぁ、飲んでみなければ」と、まだ1本も開けていないので試しに飲んでみることにしました。まずは88のリッシュブールです。このラベルは昔の図柄ですね。下の90では現在と同じになっていますから、ラベルが変わったのは、89か90かと言うことになります。

印象で言うと、とてもキレイなリッシュブールです。ちょっと軽いけど、果実実もあり、素直なおいしいワインです。複雑さには多少欠けていて、もしかしたら「グランクリュ・リッシュブール」の名前に負けているかも知れませんが、ブルゴーニュでは作り手によってはもっと酷いリッシュブールもあるわけで、これはこれで充分素晴らしいワインと思います(でも買った価格を考え合わせると、どうかとも思いますが)。そしかしたら、もう少し早くに飲んでやったら、良かったかも知れません。




Clos de Vougeot 1990
Domaine Jean Grivot

上で開けた88のリッシュブールに続いて、今度は90のクロ・ド・ヴジョです。先のリッシュブールは昔買った物ですが、一転こちらは最近(と言っても97年だけど)やまやで約8千円で買ったワイン。

その時、90にしては安いな、と思ったので買ったのですが(その頃には既に90のブルゴーニュなんて、殆ど見かけなかったものですから)、今になって思うに、ギ・アカの時代のワインだから安く出たのか、とも考えられますね。

そう言うわけで、実はあまり期待はしていなかったのですが、最初の一口から「おーこれは、おいしい」と声が出るくらいでした。結構果実実が強くて、一口目から美味しく感じました。少しタンニンも有って、果実実だけではなくストラクチャーのあるテイストで、偉大とまで言えないけど、充分良いワインでした。

と、まぁ手持ちのグリヴォを2本開けてみたのですが、総じて多少深みには欠けるものの、まぁまぁ美味しいワインで(特に90のクロ・ド・ヴジョ)、今とはスタイルが違っているとしても、単独で飲む限りでは「はっきり言ってヘンだ。」と言われるほどのワインでは無いとは思うのですがどうでしょうか?。

最も、ライター氏は、86以前と93以降のワインと比べて「ヘンだ。」と言っている訳でしょうから、それらを飲んでいない私としては、何も言いようが無いのが本当なのですが、、




Brunello di Montalcino Riserva
"Poggio All'Oro" 1990
Castello Banfi

小さな作り手が多いモンタルチーノにおいて、ダントツに大きなバンフィの、今や看板でもある有名な、ブルネッロ・モンタルチーノ、ポッジョ・アローロです。それも90。

以前開けたときは、数人でしたし、真冬で室温が低く、何だか良く分からない内に飲んで(酔っぱらって)しまった様な感じでした。それで、今回は期待しながら開けてみたのですが、時間をおいても、温度を20度ほどにしてみても、正直あまりこれと言って特に惹かれるワインでは有りませんでした。一人でゆっくり飲んでも、やはり良く分からない内に飲み終わっていました。

良いワインであることには間違いないのですが、これと言った特徴や、ここが好き、と言う点がないのが、やはり欠点と言えば欠点かも、、

今年のヴィノテークの5月号に、宮嶋勲さんがバンフィの醸造責任者にインタビューした記事を書いています。最後にバンフィについてのコメントを書いていますが、その一部を書きますと、

『バンフィのブルネッロには強烈な個性はないかもしれないが、毎日でも食卓で飲みたくなるしみじみとするおいしさがある。それは人を驚かせ感嘆させるウルトラC的ワインではないが、果実味、酸味、タンニンすべての調和がとれている。ゆえに何かの要素が突出したワインよりは印象が弱いかもしれないが、実にやさしく食事に調和してくれる。』

全くその通りかも知れませんね。ちなみに、この宮嶋さんの記事はさすがに良いと思いますので、興味が有る方は、是非バックナンバーを探して読んでみて下さい。




Querciolino 1993
Castello di Verrazzano

およそ1年前、98年6月のレポートにも書きましたワインです。このワインについての詳細はそのページを読んで下さい。

それで、あの時はオーブリオンの89やカルフォルニアの濃いカベルネと一緒だったし、人数も4、5人でしたので、このワインを女性にたとえるなら、ちらとはたを通り過ぎただけの美人ってな感じで、やはりそのワインを充分理解できていない恨みがずっと残っていました。あれからそろそろ1年になるので、こんどは一人でじっくり飲んでみることにしました。

で、やはりこのケルチョリーノは大変素晴らしいワインであることを知りました。しみじみ、美味しいなぁと思いながら、一晩で結局全部飲んでしまいました。

開けた直後は、前の印象と同じく酸が特徴的であったのですが、暫くしてしなやかな、優美な美味しさが広がってきました。やはり、これはイタリアワイン、サンジョベーゼの美味しさですね。

決して重くはなく、優美であって、とりわけ大変高貴であって、フィネスを感じます。アフターも長く、何より大変美しい。これはゆっくり楽しむに値するワインですね。大勢でのワイン会にはむいていないかも知れません。




Ch. La Conseillante 1985

このワインもまた素晴らしいワインです。暫く前、同じコンセイアントの88を飲んだのですが、そちらはどうも沈んだぱっとしないワインで、85も同じ様なのかなぁと心配しつつ開けてみましたが全然違いますね。ふと見てみればパーカーさんは94点つけています。一方88は86点で、この2つに関しては彼の評価通りに思います。

このワインは93年5月に買って、それから長らく私の手元に在ったワインです。93、94の2夏、空調の無い蔵に保管してあったのですが、私の感覚では熱のダメージは感じられません。(熟成は若干早いかも知れないけど)

開けてすぐは、美味しいけど若干ライトかな、とか思っていたのですが、30分ほどしてもりもりメルロ特有の力強さや逞しさが出てきて、口蓋では偉大、ビッグなワインで、かつ繊細、アフターも複雑で素晴らしい。

ボルドー以外の地域でもメルロは人気で、かつとても美味しいですが、こういうテイストにはなかなぁならないだろうなぁ、と思いながら飲んでいました。




Chateauneuf du Pape, Les Celefs d'Or 1961
Domaine Jean Deydier

とても珍しい、古いシャトーニュフ・デュ・パプ。実は私はローヌを苦手としていまして(これは全く個人的好みの問題です)、作り手もさほど知らないのですが、このJean Deydierはなかなか良い作り手の様ですね。

珍しいので落札して買ったは良いものの、ここまで古いシャトーニュフ・デュ・パプは飲んだ事が無く、美味しいかどうか全く不明なので、一人で試しに1本開けてみました。

デカンタ中に既に良い香りがして、期待が高まりました。(デカンタ中にかぐわしい香りがするワインは概して大変素晴らしい、と言うのが私の経験則)

開栓直後は若干揮発性の香りも有りましたが、すぐ消えて、具体的には何と書いて良いか分からないけれど、ローヌっぽい特徴の香り(変な表現ですね)を保っているのは、(私の好みとは言えないのですが)素晴らしいです。

30分、1時間と経るに従って、ワインはより滑らかになり、香りは依然特徴を残すけれど、テイストはよりまろやかに広がりを持ち、複雑さをましてきました。アフターにすこし甘さを感じる事もあり、正直素晴らしい。やはり、熟成したワインって良いですね。




Selaks Morlborough Chardonnay 1996

ニュージーランド(以下NZ)のワインは私、結構好きです。やたら樽を効かせたり、単に濃くしたりと言うのでなく、割と素直に葡萄品種のその特徴を出しているように思います。

このセラックのシャルドネは、97年にNZに行った時、オークランド近郊のセラックに訪問したときに買ったワインです。作っているワインを一応全部テイスティングしましたが、一番印象に残ったシャルドネを1本だけ買って帰りました。

セラックと言うと、私の印象では、白ワインの方が有名だと思います。日本にはここのソーヴィニオン・ブランをヴィレッジセラーズが入れてますね。私が現地で色々テイスティングした印象では、このシャルドネが一番優れて居たようでしたので買って帰りましたが、それは間違いでは無かったようです。

これはとても美味しいシャルドネです。印象としては、クラウディ・ベイのシャルドネに非常に似ています。まぁ畑もマールボロですので、クラウディ・ベイと同じ地域ですね。

瓶には、どこそこの品評会で賞をとった、と言うアワードシールが2、3種類張ってありましたが、確かにそれなりの品質ではありました。

ブルゴーニュの超一流所のシャルドネと比べて、更なる深遠さとか偉大さは有りませんが、バランスの取れた素晴らしいシャルドネの白ワインとして、本来それほど高くないし、多くの方に薦められるワインと言って良いです。(でも日本じゃ売ってないけど)




Brunello di Montalcino 1985
Lisini

トスカナでは80年代際優良年、85年のリシーニのブルネッロ。オークションで買ったワインの為一抹の心配は有ったものの、全く見事なワイン。

実はここだけ、ワインを飲みながらレポートを書きましたので、他と文体が違っていますが、敢えて修正せずに載せます。酔っていますので、有る程度間引いて読んで下さいね。

開栓直後のテイスティングで、「大変良いワイン」と判断したものの、その後30分を経て判断が誤りでなかったこと真に理解した。素晴らしい、モンタルチーノ!!

色は10数年を経て熟成の呈を示していてるが、まだ濃い。テイストは限りなく深く複雑で、開栓後時間を得て、更に悠々たる豊かさを有している。これが、熟成したサンジョベーゼ(ブルネッロ種だね)の見本だろうか、、。甘く力強いだけの若い(最近流行の)イタリアワインから、どれだけメトリックが違っている事だろう。

更に時間を経て、優美さとエレガントさをまとったこのワインは、全く素敵と言う他はない。アフターが特に長いわけではない、過去に味わった傑出したブルゴーニュの様に一意性を持った広大な世界を創造している訳ではない、また偉大なボルドーの様に天を突くほど壮麗でも無い、だか内に力強さを有し、ブルネロの持つしなやかさとエレガントさを持っていて、更に良い作り手と熟成がもたらす複雑さがとても良くバランスしている、他では得難い素晴らしいワインである。