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xiphioの備忘録


2013年02月12日

_ [music] 地方音楽批評:「佐藤久成、ヴァイオリン・リサイタル」(2月12日、徳島市)

恥ずかしながら私、佐藤久成と言う人がどんなヴァイオリニストか全く知らないでこのコンサートに行った訳なのですが、一曲目から本当に吃驚しました。コンサート終わって、「スゲーなぁ!、今時こう言う人(ヴァイオリニスト)居るんだぁ!!」と、思わず独り言でつぶやいたのですが、それがごく素直な感想です。

当日の演奏会のプログラムに付随して、5月の東京文化での演奏会のパンフレットも入っていまして、その裏面の宇野功芳さんの文の中に「予想をはるかにかに超えた、濃厚、甘美、繊細、劇的な表現に圧倒され・・云々」と有りました。最初「なんやこれ?」とも思って読んでいましたが、演奏会が終わった後では、言いたい気持ちは良く分かります。

当日のプログラムは以下の通りです。田舎の聴衆向けにアンコールピース集にしたのかな、とも最初思ったのですが、現在こう言う曲が一番得意な様で、東京文化での演奏会も同じような感じのプログラムになっていますね。

ネドバル:ヴァイオリン・ソナタ ロ短調
フランク:ヴァイオリン・ソナタイ長調
ラフマニノフ:ジプシー・ダンス
ボーム:カヴァティーナ
バッツィーニ:妖精の踊り
マスネ:タイスの瞑想曲
ヴィエニャフスキー:華麗なるポロネーズ
ベディンガー:オード・エロティーク
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

演奏会最初の曲はネドバルと言う人の知らない曲、それでもその演奏のスタイルにはかなり驚きました。かなりアクションが激しい、というか、知っている中では一番動きが激しいヴァイオリニストで、演奏も熱っぽくて音楽も感動的に良く伝わります。

さて、次のよく知られたフランクをどう演奏するのか、楽しみにしていました。そのアクションに引きずられない様に目をつぶって聴いてみたのですが、まったくもう、走り、立ち止まり、ため息をつき、もだえ、と情感を押さえられない様でも有るのです。アタックの音は大概が潰れ、勢いと緊張感をもって走り込みのだけど、時にふわっと脱力して解放したりする、それでいて音楽は美しく感動的なのです。普通はこれだけやりゃぁ、曲想からしてフォルムが潰れてしまいそうな物なのですが、、

最近のたいがいの演奏者の様な、楽譜通りの端正さとは対局にありまして、あまりに個性的で感情濃厚です。いわば、濃く煮詰めたシロップの様に粘度があって、ドロッとしています。でもそれだけど、それには透明で輝きがあり、美しいとも思えます。演奏者の純粋さが伝わる様でもある、と言えば、言い過ぎなのでしょうか。

ヴァイオリンの音は演奏会しょっぱなから、大変な美音です。テンペラメント激しく演奏しても、別段「いびつ」であるとか思えないのは、基本的に隅々まで音が美しいという影響があるかと思います。

最後のツィゴイネルワイゼン辺りにきますと、流石に崩しすぎでは、と思いましたが、実際の生の演奏の前では「それもあり、もう充分やっちゃって下さい」って感じでした。

田中良茂さんの伴奏のピアノも、演奏中からとても上手いな、と思いました。この様な演奏の伴奏は大変でしょうが、実に良かったです。

最初演奏会が始まって、拍手の中出てきた佐藤さんは、一見まぁ結構軽そうな兄ちゃん風、でありました。少し前述しましたが、演奏が始まると演奏に合わせての動きや表情の変化が大きく、腰をひねる、かがむこむ、腰を落とす、目をつぶって表情を硬くする、と思えば、背をそさせる、顎をはずす、目をむいて正面上方を見やる、とか、とにかくこんな人絶対居ない、と言うレヴェルです。

最近の音楽の演奏家って、どの人も「芸術家」オーラを万遍なく振りまいていまして、背も高く、取りすましていて、大まかに言うと皆さんとても格好いいです。出てきた佐藤さんには、最初からそんな雰囲気は無し、顔は悪くはないのですが、長くは無いはずの黒服のズボンの裾を弛ませながら、変な表情一杯での動きながらの演奏は、一見エンターテイナーの様にも見えました。でも、喋ったりするのはあまり得意では無いようですね。言葉ではなくて、また他人を気を惹く為ではなく、ヴァイオリンで自分を純粋に表現するエンターテイナーなんでしょう。演奏スタイルから、自己主張の強い人かと思いましたが、実際は全然逆で、凄く気安い感じのまぁ良い人で有る事が、ほんの少しのスピーチでも丸わかりでした。

とにかく希有な存在。宇野功芳さんは解説の最後に「又しても熱烈なファンを増やすに違いない。」として締めくくっていますが、その通りでしょう。熱烈かどうかは別にして、私も確実にファンになりました。