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xiphioの備忘録


2006年05月15日

_ [music] 音楽メディアの黄昏

何年か前に、自分のHPにミュージックソースについて色々書いたのだけど、その中に「メディアを自分で抱え込む時代は終わりかもしれない」とか何とか、そんな事を書いた筈。本人の印象としては、あれからの変革は、他の分野の事を考えると、割と遅々としていると思うのだけど、この所足踏みが少し早まった感じもする。

理由の一つがiPod+iTunesなのだろうけど、インターネットの帯域が広がりと共に、それほど帯域を必要としない音楽配信が普及するのは当然で、要するに著作権とかの金銭がらみの利害関係が動きを縛っていたと思われる。iPod+iTunesがある種ブレイクスルーになったのかもしれない。

良く違法コピーによって著作権がどうで年間幾らの損失とか算出されるが、コピーが出来なければそれだけの金額が入るかという事は絶対無く、多分それは殆ど無い。昔一太郎と言うソフトがヒットしたのは、その優秀性もあるが、「うーんこれなら買っても良いかな」と思わせる(当時のワープロソフトとして比較的安価な)価格設定でもあった。(ついでに言うと、このソフトはコピーが容易で、多くに人がコピーして使っていた。で実際使ってみて、かなり優秀だったしそれに慣れてしまっていたので、リーズナブルな価格でもあり、皆が購入したのである)

感覚外に高いと思えば、どんなプロテクトを掛けようが絶対コピーされるし、リーズナブルだと思えれば、なにせ面倒だから、たいがいの人はコピーしない。世の中はそう言う物である。ハリーポッターのDVDが1万円以上すれば、皆コピーするだろうが、コンビニで3千円台で売ってれば、見たい多くの人は買うだろう(後で売れるし)。

著作権という集金ソースを持っている所は、集金口を失いかねないと、あくまで物理メディアでにこだわり続けているみたいなのだけど、音楽配信の広がりはやはり止められない。(現在の多くの世帯のインターネット接続の速度を考えれば、当然)でも、結局は不可逆圧縮アルゴリズムによる配信だし、一曲幾らとか結構せこいし面倒な事もあり、取り立てて便利だとはあまり思わないのが現在の状況と言える。

人によって要望は違うと思うけれど、例えば私などが思うのは、簡単に言えば手元の音楽メディアライブラリの代わりをしてもらう事だ。世の中には魅力的な音楽ソースは数え切れないほど有る。今までは、見つけ次第、もしくはその時点で興味がある方面を検索して、興味有りそうなCDなどのメディアを購入しそのまま手元に保管しておいたのだけれど、これはよくよく考えてみれば如何にも不合理で無駄だらけである。買う為にCD探すのも大変だし、買ったとしても一度しか聞かないCDがいかに多いか、どれほど場所を取るか、それに第一きちんと整理しておかないと手元にあったとしても目的の音楽を探し出す事さえ出来ない、、その手間。

私は最近「NAXOS MUSIC LIBRARY」と言う所のメンバー登録をした。月に2千円弱の会費を払えば、約1万タイトルの登録CDの音楽が聴き放題である。要するに月にそれだけ払えば、「NAXOS MUSIC LIBRARY」の巨大なライブラリが自分の物となる。肝心なのはその内容なのだけれど、本当に丁度良い事に、ここのCDライブラリの傾向は割と私好みとなっていて有り難い。最初はNAXOSだけかと思っていたのだが、20以上の小規模レーベルも参加していて面白い。有名所ではBIS、その他私が好みとしているBridge,Collegium,Coro,Gimell,Swedish Scietyや何とPropriusまで参画しているには吃驚した。ただしこれらの協力レーベルは、その所有の全CDではなく一部の提供となっているのが、残念と言えば残念である。配信はCD音質と言うが128の非可逆なので、実際のCDとは違うだろうが、机の上のSPが鳴っている分には取り立てて不満は無い。

単純に考えるとこれではCDの方が売れなくなってしまうので、ずいぶんと思い切ったシステムに思うが、常時接続が当たり前になった現在では、今後こういうのが増えてくるのだろう。かつて私は、年間400枚以上CDを買っていた時期もあって、きちんと整理した数千枚のCDを複数の棚に並べているけれど、最近では、幾つかを除けばそれらは殆どわざわざ棚から探して聴きかえす事をあまりしていない。通常はCS−PCMや他の放送が流している音楽を、結構受動的に聴いたりしている。それだけでも結構充分と思えるので、考えてみれば何でこんなに一杯買っちゃったの?、と思うけど、「多分聴く事はまず無いだろうけど、何時でも聴けるようにしておきたい」、と売る事も出来ないし、また更にCDを買ったりしているのである。この様に無駄かもと薄々感じながらも、出来るだけ多くの音楽ソースを手元に置きたいという気持ち、きっとそんな人多いと思うのである。

時代が進んで便利になり、多くの情報(音楽も情報の一つと考えると)を手近に所有することが出来たとしても、人の情報処理の量は変わらず(むしろ忙しさの為減りつつあるかも)たかが知れている。便利になった事は、より安易に好みの音楽を聴く方向に進む。それで自動的に送られてくる音楽放送なのだけど、もう少し積極的に興味を満たそうとすれば、この様なインターネットを介したライブラリー所有になる筈である。

そう言うわけで、現在「NAXOS MUSIC LIBRARY」を使って、色々なCDを聴かせてもらっている。やろうと思えばデータの保管も出来るが、会員で居る限り何時でも何度でも聴けるので、その種のソフトを使ってわざわざデータをセーブしておこうとはあまり思わない。問題は、いきなりサービスを中止された時だろうけど、まぁその時はその時だ。

ことCDに関して言えば、CDと言うメディアは音楽情報を運ぶという目的以外の要素が極めて希薄である。その点が旧来のメディアである、本やLPレコードと大きく違う。そんな「趣味性」をあまり持たない故もあり、CDの様な単純音楽メディアが他の情報提供手段に変化してゆく事は、もはや避けられない。