2007年04月16日
_ [wine] 「ワインの帝王 ロバート・パーカー」エリン・マッコイ著
実はこの本を買うには、少々時間がかかりました。最初に本屋でこの本を見かけた時、「あーこんな本出てる」と軽く口にし、んじゃ買わねばならないかなぁ(「読まなきゃ」じゃないのよね)と思い手にしましたが、次の一瞬で買う気が薄れてしまいました。「だいたいパーカーさんの評伝本買ってどうすんの」、と言う実感と、実に450ページを超えるけっこう厚い本だったので、明らかに「こりゃ絶対最後までは読まないだろうな」と言う確信に似た予想が有ったからです。
最初はワイン本としては少々際物と思っていたこの本ですが、その後複数の書評を見ると意外と良い評判を得ている様だったので、やっぱり買ってみようかと思い直した訳です。(しかし、書評と言うのは、それを読んでも、どういう内容かは殆ど判りませんね。判ったのは、いずれも良い本と評されている事だけです)それでも、税抜き3400円のこの本を実際に手にとってみても、最後まで読んでしまう自信は全く有りませんでした。(この値段で結構美味しいワインが買えるなぁ、、などと考えてしまいました)
でも、読み始めてみると予想と全然違いました。まず結果だけ言いますと、なかなか良い本で、とても面白く、私はほぼ3日で読了してしまいました。書評はそこそこ正しかったと言えます。タイトルからして、パーカーさんの評伝の本ですが、実際のところパーカーさんの評伝を縦軸に、彼がワイン・アドヴォケイトを出版し始めてから現在までの、ワインの世界の移り変わりや興味有る出来事などを枝葉の様にちりばめてありまして、まぁそれが大変面白いです。とりわけアメリカ内での状況が詳しくて、興味深いです。原題は"The Emperor of wine"で、そのまま日本題と同じですが、サブタイトルを見てみますと"The Rise of Robert M.Parker,Jr and the Reign of American Taste"となっていますね。
著者のエリン・マッコイさんは、ずっとワインライターとしてほぼパーカーさんと平行したキャリアで活躍していた様で(実際はエリンさんが少し先輩格みたいですが)、この本に書かれている事柄にその長年の知識と見識が結実していまして、有る意味、ベテランワインライターとしての面目躍如と言えます。パーカーさんをダシにして、この30年間見聞きしてきた、アメリカのワインジャーナリズムや、カルフォルニアやボルドーを初めとするワイン生産者達の移り変わりを描いたとも言えまして、ゴシップ的な多くの面白い逸話にも富んでいて、有る程度知っている者には読んでいて飽きません。その点、イメージとしては堀賢一さんのコラムの超拡大版という感じもします。(あの本が面白いと思うなら、必ずこの本も面白いと思います)
肝心のパーカーさんの事についてなのですが、この本は「中立の評伝ではなく、聖人伝になっている」と評論されていることが多いらしいですが、私が読んだ感じでは、長らくパーカーさんの近くに居た者としてほぼ中立の見識で書いているのではないかと思います。結構批判めいた事も書いてますので、「聖人伝」とはなってない事は確かです。私としては、事実は事実として書き、また一歩引いた評論は要を得たものだと思っています。どういう書き方をしているかは、是非実際に本を読んでみて下さい。
ただ時折気になったのは、色々なエピソード著述時に、パーカーさんを自分の小説の主人公の様な書き方をしている事です。本に書かれているパーカーさんの言動は、自分で見たり、また取材で人から聞いた事柄なのに、まるであたかも自分の意識の元にある物の様な書き方をしています。例えばパーカーがレジオン・ドヌール勲章を受けた時の記述ですが
「(前略)この瞬間に至までの過去二十年の道のりについて、パーカーは心の中で思い返していた。ワインの世界では革命が起こり、(後略)」
とこんな感じです。ですから、こんな書き方があると時折、著述の内容がどこまで真実なのか、有る程度「小説」にする為の補作が有るのではないかと、疑いたくなります。著者は読者に受ける様に、面白く書きたいでしょうしね。また事実、この本の内容についてパーカー自身はインターネットに「この本に収められた逸話のうちの幾つかは、全くのでたらめである。」と書いたと、解説に有ります。それが何処かは不明ですが、でもまぁこの翻訳でも修正されていないとすれば、それはあまり重大な点では無いのでしょう。(大切な点なら、パーカーさんがそれを放置しておく訳がないからです)
先にも書きましたが、内容はパーカーさんを中心としながらも、ワイン業界の、興味を引く情報や、また事件やエピソードのオンパレードとなっています。パーカーさんが日本に来たときのことも結構長く載ってまして、思わず笑ってしまいました。ちなみに私はその折の横浜パシフィックの100点ワイン会に出席しました。昔の事ですが、HPのワインのページに記録が残って居ますので、良かったらご覧下さい。(その時の通訳と解説が堀賢一さんでした。)
そのほか、一つ気になる情報を見つけました。、パーカーさん自宅には3つのセラーが有る様ですが、内容はフランスのボルドーやローヌで90%だそうです。ブルゴーニュも幾らか有るでしょうから、と言う事になると、最近の新興地区は言うに及ばす、カルフォルニアワインさえ、自身のセラーにほとんど無いという事ですね。評価と、自分で持っておきたいワインはやはり違うみたいです。
翻訳の文章は、無理が無くとても読みやすくて良いです。ただ「バレルサンプル」を「樽抜きサンプル」の様に訳していますが、「樽抜き」という言葉には最後まで違和感を感じました。
_ [wine] Beau Freres 1997
上述のパーカーさんの本を読みながら飲むワインは、と考えるとこのワインが一番良さそうなので、ついつい開けてみました。私自身はまだ一度も飲んだ事が無くって、流石にそろそろ飲まなければいけないワインだったので、丁度タイミングも良かったと言えます。
一応このワインについて解説しますと、このワインはオレゴンのピノ・ノワールで作られたワインなのですが、何と言っても作り手がパーカーさんの義理の弟でして、ワイン作りに関しては当然ながらパーカーさんのアドヴァイスがかなり取り入れられている模様です。このボー・フレールと言う銘柄名はフランス語で「義理の兄弟」と言う意味らしいです。このワインに関しても上述の本に結構詳しく取り上げられていますね。
ちょっと余所を見たところ、何だか誤った情報も無くは無い様なので、キチンと書いておきますと、作り手のマイケル・エッツェルはパーカーの奥さんパットの弟である由。1986年に地所の購入にあたって義理のお兄さんのパーカーさんに購入費用を借りています。ワイナリー経営には初期にかなりな投資が必要なので、他の出資者も見つけて、ワインは1992年から出荷されている様です。ですからパーカーさんは出資者の一人です。
上述の本には、この義理の弟のワインについて、更にこう書かれています
「(前略)だがパーカーにとって、結果は不満の残るものだった。ワインは悪くなかったが、ブルゴーニュの様な偉大さや複雑性を持っていなかった。(後略)」
実は此処の箇所を読む前に、既に開栓して飲み始めていたのですが、(上記は初期のヴィンテージについてなのでしょうが)この1997についても、私の感想も、全くその通りです。トップノーズは結構素敵で、期待したのですが、時間が少し経っても香りは開かず、テイストにストラクチャーが有りません。悪いワインでは無いのですが、明らかに単調です。食事となら問題なかったでしょうが、私はパンだけで飲んだので、余計にそう思えて飽きてしまい、結局半分しか飲みませんでした。97はカルフォルニアのピノには悪い年では無かったみたいですが、葡萄の木がまだ若いからでしょうか。
このワイン当時8千円弱で買っています。この出来では高いよなぁ、(実はもう1本有るけど)。ちょっと見たところ最近はもう少し安く売っているようですね。話題性が薄れ、幾らか中身に追随したのでしょうか、このごろはどういう出来なのでしょう。(しっかし、WSは当てにならないなぁ)