2007年12月05日
_ [book] ポアンカレ予想の解決
「ポアンカレ予想」が解決されたらしい、と知ったのは今年の春でした。いまとなれば、知るのが随分遅かったですね。専門誌には2004年頃から、記事が載っていたようです。もっとも、その功績によりフィールズ賞がロシアの数学者ペレリマンに決まったのは2006年ですから(本人は受賞を辞退)、有名になったのはそれからかも知れません。また、私は残念ながら見ていないのですが、最近のTVの特集番組で、ポアンカレ予想とそれを解決したペレリマンの番組放送が有ったらしいですね。見たかったなぁ。
私が気がつかなかっただけかも知れませんが、フェルマーの定理が証明された時ほど、(一般的には)騒がれなかったのでは無いでしょうか。あの時は、本が2、3冊出ましたし(買ったけど、よく判らなかった)。今回も市内の大きな本屋に行く度に、時折数学のコーナーで解説本が出ていないかと探したものですが、最近まであまり見かけませんでした。フェルマーの時は前述の通り、何種類かの解説本が平積みしてあったのですが、、。先日やっと「ポアンカレ予想を解いた数学者」(ドナル・オシア著)という本と、「解決!ポアンカレ予想」(数学セミナー増刊)と言う雑誌増刊号を見つけ、買ってみました。
まず私は一応理科系と言っても物理でして、お恥ずかしながら位相幾何は習った事も勉強した事も有りません。何も知らないのに等しいので、まず、その「ポアンカレ予想」自体が、名前だけ知ってて、何のことか知りませんでした。
「単連結な3次元閉多様体は、3次元球面と同相である。」と言うことなのですが、これは本を読み始めて、キチンと名称の定義を知るに至って、大体理解できました。確かに、大変もっともらしい予想でして、ちょっと考えてみても、反例なんて有りそうもないのですが、証明するのは大変なんですね。
「ポアンカレ予想を解いた数学者」の方は、どちらかと言えば読み物でして、ユーグリッドから始まる幾何の歴史と著名な数学者の功績を、歴史背景までも交えて綴っています。まぁ、数学の源流からポアンカレ予想解決までの物語本です。解決までの手法も書かれては居ますが、そちらは脇役ですね。
それで、数学セミナーの増刊のほうで、あまり理解できないものの、どの様な方針で解決に至ったかを読んでいますと、なんか凄いです。トポロジーとかの位相幾何の問題なのに、リッチ・フローと言う、一見熱力学的な時間発展の方程式を使って、多様体をより平均化した方向に変形してゆくのですね。この方法は、随分前にハミルトンという方が考えたらしいですが、「熱力学や統計力学」ですか、、。最近の宇宙論や素粒子物理学で、とんでもなく高度な数学的な手法を使う(また、その為に新しい数学を構築する)ことは聞き及んでいましたが、逆もありうるというのは驚きです。それも位相幾何に、、。ペレリマンはそのリッチフローのプログラムを、色々な手法を用いて、キチンと証明して終わらせたらしいですが、それが大変面倒だったらしいです。
ポアンカレ予想が解けた結末として、巷の表現で「宇宙の形が解った、、云々」とか書かれて居ることがありますが、残念ながら今ではそのインパクトは少々弱いです。昔々、私が中学生の頃、読んだ本で宇宙のことを知った時、宇宙は有限で閉じたものに違いない(つまり正の曲率を持った3次元閉多様体)、と思いこんでいました。恐らく当時の多くの方は、その様に予想したのではないでしょうか。
しかしいつしか時代は変わり、宇宙論は素粒子論を元に新たなモデルが多数提言されるし、また観測データもその情報と精度が飛躍的に高まり、今では、宇宙は別に閉じている必要もないらしいですし、また実際の観測でも曲率はほぼ0に近いフラットで有るらしいです(これはまだ確定とはいえないでしょうが)。この様な部門でも、時代の進化に従って有る議論が少々色あせて来るのを垣間見ます。
それにしても、ペレリマンのおかげで、サーストンの幾何化予想が証明されて、3次元多様体が8種類に分類されることが証明された事は、やはり大きいですね(3次元多様体の構造なんて、基本的な3種類以外はいくら考えてもどうもピンと来ませんが)。フェルマーの定理より、ポアンカレ予想の方が、その解法の手法をたどる上でも、ずっと面白いです。